研究概要 |
ヒトを用いたこれまでの研究から,脊髄損傷者(脊損者)の下肢麻痺筋の電気刺激に対する反応は,不随意な痙攣の有無に大きく依存することが明らかとなった。痙攣が筋トレーニングの役割を果たし,その結果筋の萎縮が軽減されたのである。そこで,本年度は脊髄損傷者の下肢麻痺筋に筋刺激装置を用いて,長期間にわたり電気刺激による筋刺激(筋トレーニング)を行い,その効果が認められるかどうかを観察した。被験者は筋肉の存在はMRIで確認されたにもかかわらず,筋電図反応が認められなかった脊損者を対象とした。筋トレーニングとして,筋電気刺激装置(Compex Perfomance)により,麻痺筋を1週間に2~3回,1回につき15分間刺激し,これを3~6ヶ月間連続して行った。トレーニング効果は,筋収縮を視認し,さらに筋トレーニング前後の下肢のMRI映像により筋の断面積の変化を測定した。その結果,この程度の筋トレーニングでは麻痺筋の筋収縮能力は回復せず,また筋断面積の変化も起こらないことが明らかとなった。 一方,動物実験ではNa^+-K^+-ATPase活性と脊損後の筋機能低下の関係について検討した。実験にはWistar系ラットを用いた。これらを実験(E)群とコントロール(C)群に分け,実験群には,胸髄をTh6-12間で切断する手術を施した。術後20日(C-20およびE-20),40日(C-40およびE-40)および60日(C-60およびE-60)に腓腹筋表層部を摘出し,Na^+-K^+-ATPase活性を測定した。それぞれのC群に対するE群の平均値の割合は,E-20で106.3%,E-40で74.2%,E-60で82.6%であったが,C群とE群との差異は統計的に有意ではなかった。これらのことから,脊髄損傷後に生じる筋力の低下に,Na^+-K^+-ATPase活性の変化は関与していないことが示唆された。
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