研究課題
我々は、下肢筋への血流制限下での筋力トレーニングによる筋肥大効果が、通常の低強度トレーニングを行った上肢筋に転移することを報告した(Madarame, Ishii et al., 2008)。この現象(「効果転移」)は、トレーニングによる筋肥大を助長する何らかの循環性因子の存在を示唆する。本研究は、効果転移を引き起こす循環性因子の検索と同定を試み、運動に対する筋および全身の適応のメカニズムに新たな知見を加えることを目的とする。本年度は主に、1)効果転移の一般性、2)循環性因子の探索・同定について研究を行った。1)効果転移の一般性:筋肥大効果の転移が、A)下肢筋から上肢筋へという特定の関係でのみ成り立つものか、B)血流制限下でのトレーニングという特殊なトレーニングに特異的な現象かどうか、の2点につき検討した。A)については、健常若年男性を、下肢筋の血流制限トレーニングのみ、下肢筋の血流制限トレーニング+体幹筋(腹筋群)の低強度トレーニング、体幹筋の低強度トレーニングのみ、の3群に分け、2ヶ月のトレーニング前後で、体幹筋横断面積、体幹筋力などを評価した。その結果、下肢筋の血流制限トレーニングによって、体幹筋の筋力と筋横断面積の増加が助長されることが判明した。B)では、A)と同様の実験を、下肢筋に対する高強度通常トレーニングと上肢筋に対する低強度トレーニングの組み合わせで行った。その結果、下肢筋のトレーニングによる有意な上肢筋への助長効果は認められなかった。2)循環性因子の検索・同定:下肢血流制限トレーニングの前後に血液を採取、血清中の濃度変動の著しいペプチドを二次元電気泳動およびショットガン解析(ラベルフリーおよびタグ法)の双方で検索し、複数の因子を候補として同定した。現在、実験結果の再現性を検証中であり、次年度にELISAによる発現定量などを行う予定である。
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J.Appl.Physiol. 108
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