研究概要 |
我々は、血流制限下での筋力トレーニング(「加圧トレーニング」)による筋肥大効果が、同じトレーニグを行っていない他の筋に転移することを見出した(Madarame, Ishii et al., Med.Sci.Sports Exerc.40,258-263,2008)。この現象(「効果転移」)は、筋肥大を助長する何らかの循環性因子の存在を示唆する。本研究は、主に次の4つのサブテーマに沿って実験を行うことにより、この効果転移を引き起こす循環性因子の検索と同定を試み、運動に対する筋および全身の適応のメカニズムに新たな知見を加えることを目的とする:1)効果転移の一般性、2)循環性因子の探索・同定、3)循現性因子の産生卸位、4)強制発現の効果。これらのサブテーマのうち、当該年度は、1)効果転移の一般性、2)循環性因子の探索・同定、および、3)循環性因子の産生部位について研究を進めた。1)については、前年度の研究により、筋肥大効果の転移が、下肢筋から上肢筋へという特定の関係でのみ成り立つものではなく、下肢筋から体幹筋へも起こる現象であることを示したが、血流制限下でのトレーニングという特殊なトレーニングでのみ起こる現象であるかが確定的でなかった。当該年度の研究から、効果転移は一般のトレーニングにおいても、特定の条件(運動の量および休息時間)が満たされれば生じる現象であることが判明した。2)については、下肢血流制限トレーニングの前後に採取した血清中のペプチドを二次元電気泳動およびショットガン解析(ラベルフリーおよびタグ法)の双方で検索し、複数の因子を候補として同定した。その結果、濃度の低下するものとしてsomatostatin、GDF-8、濃度の増加するものとして、Il-6、FGF-20、FGF-8、hepatocyte growth factor activator(HGFA)、IGF-1 binding protein complex、HSP-71などが同定された。これらのうち、濃度の増加するものにつき、動物モデルを用いた免疫染色により局在を調べたところ、筋組織で生産されることが示唆された。
|