本研究の最大テーマである再生筋における筋衛星細胞(SC)の挙動を生体上で観察することに成功した.この実験は,F344系ラットのヒラメ筋の遠位1/4部に挫滅損傷を与えて,再生が最も盛んな損傷3日後に,M-cadherin-Qdot複合体でラベルしたSCの動態を吸引麻酔下のラット下腿上から観察したものであり,筋表層のSCが損傷方向に移動することを観察可能にしたものである. 次の実験では,発育期の筋におけるSCに着目した.筋細胞の成長は新たな筋節が線維端に形成されながら細長く伸長するが、その筋線維端筋核の増加はSCによると考えられる.そこで,発育初期(生後1から3週齢)のラットを用い,筋の長育を支えるSCの動態を観察した結果,経時的に筋線維中央側から筋端方向に移動(平均移動速度は105nm/min)する,M-cadherin+ SCを確認することが出来た.発育の筋線維では,筋線維上既存部にあるSCが活性化・増殖し,筋線維端に移動し筋端で融合することで筋形成・筋節構造の新設に働くことが明らかとなった. このようなSC移動の制御メカニズムが不明のままであるが,培養実験において筋芽細胞移動を誘発する主な因子として肝細胞増殖因子(HGF)があることが知られている.そこで,外因性HGFを用い筋衛星細胞移動の誘因性を検討した.麻酔下のラット下腿を露出させ、HGF溶液にて3時間インキュベーションされた結果、濃度依存性のある移動速度を示す細胞が生体上で観察された. HGFインキュベーションにより,SCにおいてMyoDの発現が引き起こされており,移動した細胞がSCである可能性が示めされた.生体の骨格筋内の筋衛星細胞移動の制御メカニズムをリアルタイムで検討する上で有効な研究モデルを得ることができた.
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