研究概要 |
60歳以上のドライバー172名(平均73.2歳、61歳から85歳、標準偏差5.3歳))を対象に、コーチング技法をベースにした安全教育を行った。教育はツインリンクモテギのホンダ安全運転教育センター(栃木県茂木町)の協力のもとに行われた。教育参加者は、運転歴等の記入の後、安全確認・安全速度など21項目の運転行動についての自己評価(5段階スケール)が求められた。そして、所内コース約1.5キロを運転し、その間車内に設置された3台のカメラにより運転行動が録画された。運転終了後、参加者たちは3~5名のグループごとに録画された映像を観察しながら、指導員の指導の元に自身の運転行動の安全性について客観的な検討を試みた。集団討議後、再び自己評価を行い、所内コースを運転して、教育効果測定のためのデータ収集を行った。さらに教育終了後に、有効視野(中心課題をストループテスト)、単語遅延記憶テスト、危険予測診断テストが行われた。データ分析の結果、以下の知見が得られた。(1)教育によって運転の安全性が向上した(t=21.764,df=159,p=.000)、(2)危険予知能力検査は運転行動の安全性と高い相関がある(教育前:r=.183,n=160,p=.021教育後:r=.178,n=153,p=.027)、(3)教育前と教育後での自己評価妥当性(指導員評価と自己評価の差)は教育後が教育前に比べて有意に上昇した(t=18.500,df=158,p=.000)。(4)認知機能検査と運転行動:教育前と教育後のいずれにおいてもストループテストと運転行動との間に有意な相関が認められた(教育前:r=.228,n=119,p=.013教育後:r=.238,n=115,p=.010)。単語再生テストと有効視野テストについては関連が認められなかった。(5)認知機能検査と教育効果:自己評価妥当性とストループテストとの間に教育前では相関が認められたが、教育後は相関関係が消失した。教育前に認められた認知機能の差異による安全行動の違いが教育後に消失したことは、教育効果が認知機能の差異を上回った効果があったと解釈される。
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