研究概要 |
(目的) 神経筋接合部における形態的な加齢変化は、脱神経を誘発する要因となり、筋の脆弱化を加速させると考えられる。本研究ではラット横隔膜の加齢および脱神経モデルを用いて、エンドプレート(AChレセプターの集合体)の形態および発現調節に関わるシナプス核数の適応変化を調査した。さらに、AChレセプターの凝集に関連するMuscle specific kinase(MuSK)mRNAの発現レベルについて検討した。 (方法) 被験動物として、young(8週齢:n=22)およびold(24ヶ月齢:n=17)ラットを用い、左側横隔神経に対する切除術(DNV群)または疑似手術(CTL群)を施した。6日または30日後に左側横隔膜から単一筋線維を複数単離し(平均1個体から20本)、エンドプレート(αバンガロトキシン染色)および周辺核(DAPI染色)を可視化した。コンフォーカルレーザー顕微鏡と専用ソフトを用いてエンドプレートを含む単一筋線維を立体構築し、エンドプレート体積およびシナプス核数を調べた。 (結果) Young群と比較してold群では、エンドプレート体積(1831±911vs2232±1494μm3)およびシナプス核数(6.2±3.8vs9.6士6.1個)の有意な増加が見られ、1つのシナプス核が支配するエンドプレート体積(SND)は減少した。さらにMuSK mRNAの有意な減少も認められた。DNV群では、両年齢群共にエンドプレート体積の減少傾向およびシナプス核数の増加傾向を示し、SNDの有意な減少が認められた。 (考察) 加齢に伴うエンドプレートの拡大現象は、whole muscleを用いた我々の先行研究(Suzuki, et al. J. Physiol. Sci. 59:57-62(2009))でも確認されており、MuSK mRNAの発現レベルの低下が原因である可能性が示唆された。また、SNDの減少は、加齢あるいは脱神経が単一シナプス核におけるAChレセプター発現量の低下を引き起こした可能性を示唆し、代償的に核数を増やすことでエンドプレートの機能・形態的特性を維持したと推察される。
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