研究概要 |
近年では予防医学という言葉が注目され,日常の食生活を改善することより種々のストレスより生体を保護し,疾病を回避する考え方である.特に生活習慣病の発生には,生活環境や食生活などの様々な原因が挙げられることより,これらの予防効果を多くの植物性食品成分に期待する動きが生じている.生体の侵害刺激に対する酸化ストレス防御機構や解毒機構を発動制御する司令塔的因子であるNrf2の賦活化を誘導するスルフォラファンの効果を検討した.野生マウスと本学で作製されたNrf2を遺伝的に欠損するNrf2ノックアウトマウス,侵害刺激に対して安定性を示すKeap1ノックアウトマウスに対してメチオニンコリン欠乏食による脂肪性肝炎モデルを作製した.酸化ストレスに対する抗酸化防御系の発動,肝からの鉄排泄の促進の観点より検討した.また,各種遺伝子改変マウスより初代培養肝細胞の樹立を行い,肝からの鉄排泄の促進について,Nrf2の役割を細胞レベルより詳細な解析を行った.解析の結果より,抗酸化ストレス応答が脆弱化したNrf2ノックアウトマウスでは早期に脂肪性肝炎を発症し,一方,Keap1ノックアウトマウスでは脂肪性肝炎を発症しなかった.肝における非ヘム鉄濃度はNrf2ノックアウトマウスで顕著に増加しており,本マウスでは鉄排泄輸送体のferroportin 1の発現レベルが低下していた.各マウスからの初代培養肝細胞を用いた実験においても,メチオニンコリン欠乏培地では,Nrf2ノックアウトマウス由来肝細胞の肝細胞から培地への鉄排泄は他のマウス由来肝細胞に比較して低下していた.これらの結果より,Nrf2の賦活化は抗酸化ストレス応答のみならず,肝細胞における鉄代謝を調節し,脂肪性肝炎の発症と進展を防御すると推測された.
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