加齢によるきこえの低下(加齢性難聴)は、高齢者のもっともありふれた状態の一つであり、人口の高齢化にともないその有病率は増加傾向にある。近年の研究により加齢性難聴の成因に関して酸化ストレスの関与が示唆されることから、抗酸化物質による予防効果が期待されている。我々は、先行研究において血清レチノール濃度およびプロビタミンA濃度が高くなるに従い、加齢性難聴者の割合が低下することを明らかにした。しかし、時間断面研究の制約上、「関連の時間性」が証明できなかった。 そこで、本研究では、追跡研究デザインにより、ベースライン時の抗酸化物質濃度と難聴罹患との関連を検討した。その結果、時間断面研究で予防的な関連が示唆されたretinolに関して、難聴発生との間に関連は見られなかった。一番低いレベルを基準にすると、中間位および一番高いレベルでの難聴発生のOR(95%CI)は、それぞれ1.94(0.78-4.81)、1.60(0.64-3.97)であった。その他の抗酸化物質に関しても、難聴発生と統計学的に有意な関連を示すものはなかった。 次に、紫外線曝露指標と難聴との関連を調べた結果、血中抗酸化物質レベルが低い群では、紫外線曝露と難聴に関連を認めた。 以上の結果を総合的に解釈すると、抗酸化物質が高いと加齢性難聴の発生に予防的に働くという直接のエビデンスは得られなかったが、抗酸化物質レベルが低い場合には、紫外線曝露に代表される全身性の酸化ストレスが加わった場合に、難聴を惹起する可能性が示唆された。
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