研究概要 |
初年度の研究では,数学的コミュニケーションの創発性について,その過程における推論に焦点を当て,新しいアイデアが生み出される創発連鎖を論理学的に分析することを目的とした.この目的を達成するために,本年度の研究では,これまで"Reflective Thinking"と呼ばれてきた思考を反省的思考と反照的思考という2つの相に分けることにより,例示された表現に対する反照的思考の中で展開される仮説形成と発見の過程をPeirceの「アブダクション,演繹,帰納」という考え方を用いて説明するという方法を用いた.平成21年度の研究で得られた成果は,以下の通りである. 『私たちが行う個人の問題解決過程に必然的に必要となる「表記1→反省的思考1→・・・→反省的思考n-1→表記n(安定した表現)→反照的思考1→構造の発見1→反照的思考2→構造の発見2→・・・」という思考の連鎖に対して,他者とのコミュニケーションは,「他者の表記→反照的思考→構造の発見」という過程が挿入されることにより,反省的思考の一部の過程を省力化する効果を発揮することがある.ここで重要なことは,思考の省力化が次なる思考へのより高度な集中をもたらし,個人では達成できなかった新しいアイデアの想起をもたらすことにある.反省的思考の一部の過程の省力化は,「表記n(安定した表現)→反照的思考1→構造の発見1→・・・→反照的思考s→構造の発見s」という反照的思考の過程に,さらなる発見をもたらす「構造の発見s→反照的思考s+1→構造の発見s+1→反照的思考s+2→構造の発見s+2」という過程を導き出す可能性を高める.送り手が自分の思考の対象を顕在化させるために表した例示が,他者にとって何らかの反照的思考をもたらす表現となれば,送り手も受け手も所持していなかったアイデアが創発される可能性が出てくることになる.』
|