研究概要 |
本研究の目的は、コミュニケーションの創発過程を具現化する聴覚障害児の数学の授業のための教材を開発することである.平成22年度は,創発連鎖における反省的思考と情動的経験について考察を行った.本年度の研究で得られた成果は,以下の通りである. 「問題の解決に向けた初源的な取り組みは,まず,問題解決のために思考の対象を顕在化する「表す」という作業から始まる.思考の対象を眼前に表すという作業は,問題解決の見通しが未だっかない中で,さまざまな試行錯誤を通して行われる.そして,表された対象物は反省的な思考で捉えられ,より考えやすい表現に書き換えられることになる.試行錯誤と反省的思考の連鎖の中では,個人の問題解決者は,自らが所有している知識や経験に依存した思考を行うことにより,また,自らの思考の癖によって,無意識のうちに循環型の思考に落ち込むことがある.これが個人による問題解決の限界となる.こうした循環型の連鎖を断ち切る役目を果たすのが,他者からの刺激を受けることである.他者から送信されたメッセージを受信することは,所有しながら活用することを忘れていた知識や経験を想起させてくれたり,あるいは,まったく異なる表現に出会うという機会を与えてくれたりする.こうした他者からのメッセージの受信は,そのメッセージが自分自身の思考の枠組みから外れているほど,受信者に「驚き」を伴って受信される.ここで経験される情動的な経験は,個人の問題解決過程では,新たなシェマの活性化により解消されるが,他者から与えられた刺激に対する驚きの解決方法は,与えられた図などを観照し,自分自身を納得させる新たな解釈を得るしか方法がないので,驚きを解消するための初源的な仮説を形成させる推進力となる.「なぜ,そんな例示をするのか」という驚きは,他者が送信したメッセージの意味を,自分を納得させる仮説として,形成させるように促すのである.
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