研究概要 |
平成23年度は,前年度に行った創発連鎖における反省的思考と情動的経験に関する考察を基に,「目標(3)記述された行為の能動性と協働性の分析方法の開発」に着手した.本年度の研究で得られた成果は以下の通りである. 「私たちが行う個人の問題解決過程に必然的に必要となる「表現1→反省的思考1→表現2→…→反省的思考n-1→表現n(安定した表現)→反照的思考1→構造の発見1」という思考の連鎖に対して,他者とのコミュニケーションは,「他者の表現→反照的思考→構造の発見」という過程が挿入されることにより,「表現f→…→反省的思考n-1→表現n(安定した表現)」という反省的思考の一部の過程を省力化する効果を発揮することがある.ここで重要なことは,思考の省力化が次なる思考へのより高度な集中をもたらし,個人では達成できなかった新しいアイデアの想起をもたらすことにある.反省的思考の一部の過程の省力化は,「表現n(安定した表現)→反照的思考1→構造の発見1」という反照的思考の過程に,さらなる発見をもたらす「(構造の発見1→)反照的思考2→構造の発見2」という過程を導き出す可能性を高める.送り手が自分の思考の対象を顕在化させるために表した例示が,他者にとって何らかの反照的思考をもたらす表現となれば,送り手も受け手も所持していなかったアイデアが創発される可能性が出てくることになる. 私たちは抽象的には考えられない.「思考には必ず思考の対象が存在する」という立場を前提にすると,反省的思考とは思考の対象を表すという表現活動に対する思考である.その一方で,反照的思考の特徴は,この思考によって表現の改良がもたらされない点にある.反照的思考とは,それまでの試行錯誤によって精緻化されてきた表現を観照することにより,例示された表現に新たな解釈としての選択的知覚を与える思考のことである.」
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災に伴って起きた福島原子力発電所の事故により,研究分担者の所属する福島大学では,避難者の引き受け等,震災関連の諸問題が発生したが,研究分担者ならびに研究協力者の尽力により,聴覚障害者へのケアーなど,予定外の成果ももたらされた。研究環境が整わず,厳しい1年であったが,研究計画に従い,予定どおりに研究を進行させることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の4年目となる平成24年度は,5年間の研究をまとめる最終ステップへと向かうことになる。これまでの3年間の成果を整理統合しながら,研究計画に従い,予定どおりに研究を進めることにする。なお,東日本大震災に伴ってその問題の所在が明確になってきた,災害発生時の聴覚障害者への情報伝達や情報提供という問題について,私たちの研究,すなわち,コミュニケーションという観点から,当初の計画にはない問題へもできる限り対応していくことにする。
|