研究概要 |
平成23年度は,数学的リテラシーを育成する授業モデルを評価した.この授業モデルは,数学的活動の主要な構成部分である「数学化」(mathematization)に着目した授業設計の原理を提供するもので,評価の方法として,その原理に基づく教授実験を実施し,生徒の数学学習に及ぼす効果を分析した.その際,次の2つの研究課題を設定し,その解決を試みた。一つは,高等学校数学科において概念獲得場面での数学化を充実させ,概念活用場面とのバランスのとれた数学的活動を行うこと,もう一つは,その単元構成を基に行った授業実践を分析し,数学の得意な生徒のみならず苦手な生徒に対しても有効な学びであることを明らかにすることである.前者の課題に関して,数学化を「概念的数学化」と「応用的数学化」に区別し,これらの数学化を意識した単元を対数を素材として授業開発を行った.後者の課題に関して,文系で数学を学ぶ生徒に対して開発した対数単元の授業を実践し,その効果を分析した.その際,生徒のこれまでの数学学習に対する得意・不得意のグループ間における学習の差異に注目しつつ,授業のデータを分析した.これにより,概念的数学化に基づく対数学習が,両グループの生徒に対して及ぼす効果の差異を検証し,さらに,概念的数学化の経験が,応用的数学化や単元全体の学習にどのような影響を及ぼすかも明らかにした.授業を受けた生徒の「声」の多角的な分析を通して,次の二点の結果を得た.(1)概念的数学化を通して学ぶことは数学を苦手とする生徒の学びを促進する点で,概念的数学化は数学的リテラシーを育成する上で有効な数学的活動の一つであること,(2)概念的数学化と応用的数学化をセットにして対数を学ぶことで,苦手生徒のみならず得意生徒に対しても対数概念を現実味をもった理解を深めることができること,である.
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