本研究はコンピュータベースでの評価や学習支援において、従来主な対象となってきた知識・思考力ではなく、スキル(感覚運動系能力)を扱うことを目的とした。当該年度は、スキルの一翼を担っていると考えられる、受験者の筋肉の使い方を定量的に評価することをめざし、例題として鉄棒の逆上がり運動を選定した。逆上がりは学校の体育において学習する一般的な運動であり、得意・不得意が明瞭で評価結果の検証が容易な点、被験者を容易に集められる点でメリットがある。 このテーマにおいて、具体的に以下の内容を実施し、成果を得ることができた。1.鉄棒運動の中でもいくつかの種目を検討したが、データ収集の観点から逆上がりが最適であると判断した。2.筋電計とハイスピードカメラにより、被験者の運動を計測し、逆上がりを3つのタイプに分類できることを見出した。3.計測データから、被験者のスキル評価に有効と思われる特徴を84個抽出した。4.ニューラルネットワークを用いてタイプ識別器を構成でき、タイプが未知の被験者の分類がコンピュータベースで可能であることを確認した。5.項目反応理論などにより特徴の取捨選択の検討を行い、腕力およびそれを使うタイミングなど、逆上がりが得意な被験者と不得意な被験者とを区別する要素を見出した。 以上の成果により、鉄棒逆上がり運動のような種目において筋電計などで計測されたデータから被験者の特徴を抽出してタイプを分類することが可能であり、加速度センサの場合と同様に、種目に応じて適切なセンサを選ぶことによりコンピュータベースでスキルの定量的評価が可能なことを示すことができた。
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