研究課題/領域番号 |
21300319
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
近藤 智嗣 放送大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70280550)
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研究分担者 |
有田 寛之 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, その他 (70342938)
真鍋 真 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, その他 (90271494)
稲葉 利江子 京都大学, 情報学研究科, 講師 (90370098)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ヒューマンインタフェース / ミクストリアリティ / 科学リテラシー / 縦断的研究 |
研究概要 |
本研究では,恐竜の骨格標本を対象とした複合現実感コンテンツを開発し,その評価を行ってきた.評価方法として,これまでは主に事後の質問紙調査を行ってきたが,それに加えて体験者の行動を記録し分析することも検討してきた.2011年に静岡科学館で実施した「アロサウルスが見た世界 ジュラ紀の地球展」では,複合現実感展示も実施し,その時の体験者の行動ログを記録した.このログデータを詳細に分析し,日本展示学会の論文「骨格復元の新旧学説を対比する複合現実感展示解説とその評価」にまとめた.アロサウルスは大型の肉食恐竜で全長約7mであるため,骨格標本の周りをまわりながら複合現実感コンテンツを体験することは難しいが,小型の恐竜であれば移動しながらの体験も可能である.そこで,小型植物食恐竜のオスニエロサウルス(全長1.6m)の骨格標本を対象に,移動することが前提のコンテンツを新規に開発して行動分析を行った.この結果は,日本バーチャルリアリティ学会の論文誌に基礎論文「没入型複合現実感展示におけるガイド機能の評価」としてまとめた.このように平成24年度は複合現実感コンテンツの体験時の行動分析を詳細に行い,その成果を論文として発表した. また,コンテンツのインタラクティブな要素を高めるため,マイクロソフトのKinectというジェスチャーによる操作が可能なセンサーを用い,アロサウルスの姿勢の違いをジェスチャーによって切り替えるコンテンツを開発した.このコンテンツは,国立科学博物館の東北復興支援コラボとして岩手県立博物館において2012年12月に展示を行った.さらに,この展示では,複合現実感によるぬりえのシステムも併せて体験型展示として実施した.この成果は2013年6月の日本展示学会で発表する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研費補助によって,複合現実感の博物館応用である本研究は,博物館,展示に関係する企業,複合現実感を研究している大学等における知名度が着実に上がり,複合現実感展示の実用化の一助をなしたと言える.特に,ハンドヘルドディスプレイ(HHD)を使用した没入型の複合現実感展示は世界的に類が無く,本研究で博物館における実証的評価研究を行ったことで実用化が示唆されたと考えられる.実証的評価の中でも行動分析は,従来の質問紙調査等の主観的評価とは異なり,コンテンツ評価の手法としてもオリジナリティがあると考えられる.また,本研究は,一部,大学の実験室で実験を行うこともあったが,多くは実際の博物館で一般来館者を対象に展示を行っていることも特筆できる.国内では,国立科学博物館,北九州自然史・歴史博物館,福井県立自然史博物館,岩手県立博物館等である.さらに国外ではドイツのシュトゥットガルト自然史博物館,スミソニアン自然史博物館でも一般来館者を対象に展示を実施している.博物館以外では,ドイツのチュービンゲンにある研究所IWM-KMRC,ロサンゼルス近郊の在留日本人が多いトーランス市の日系書展での展示も行った.また,関係者を対象とした展示としては,ニューヨークのアートギャラリーでの展示,ロンドンの美術館テートモダンでも実施している.このように国内のみならず海外でも本研究の成果である展示コンテンツを公開できたことは大きな成果であると考えている.研究成果も国内の学会,国際会議でも口頭発表を行い,論文にもまとめている.その他には,新聞,雑誌,テレビなどでも紹介されている.
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今後の研究の推進方策 |
1) コンテンツ開発 本研究では主に博物館に展示されている恐竜等の骨格標本を対象に複合現実感技術による展示コンテンツを開発し評価実験を行っている.昨年度までは,小型植物食恐竜であるオスニエロサウルス等の骨格標本を対象としてきたが,本年度は,新たに始祖鳥のコンテンツを開発し評価実験を行う計画である.始祖鳥は一般的にも有名であるが,始祖鳥が恐竜に属するのか鳥類に属するのかは未だ議論が分かれるところであり,博物館の標本を見るための科学的思考を養うための題材としては優れているからである.また標本が小さく持ち運びが容易なことから,博物館の会場を変えて実験するのに適している.本研究ではベルリン標本と呼ばれる板状のレプリカを使用することにしている.今後の計画としては,この標本を対象に骨格,生体復元のCGモデルを作成し,展示解説として完成させ展示実験を行う予定である.実施場所は,国立科学博物館の他にドイツの博物館での実施も検討している.また,コンテンツを視聴するデバイスは,これまではHMD/HHDを使用してきたが,本年度は近年急速に普及しつつあるタブレットPCを使用することにしている. 2) コンテンツ評価 これまでのコンテンツ評価は,質問紙調査が主であったが,本研究では行動分析による評価手法も開発しつつある.オスニエロサウルスやアロサウルスを対象とした実験では,体験者の移動ログとして複合現実感デバイスのカメラ位置と傾きを3次元座標として記録し,分析を行っている.始祖鳥のコンテンツについても同様に体験者の行動を記録して分析する予定である.ただしタブレットPCをデバイスとして使用するため,新規にログ記録プログラムも開発する予定である.
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