研究概要 |
(1)写本の写真のイメージファイルから図版の計量的情報を抽出する再描画ツールの改善をすすめ,図形の種類・特徴を検索可能な形で記録する機能の改善がなされた.実際に多くの図版に対してこの機能を用いて図形の特徴を記録する作業は今後おこなうこととなる.(2-1)前年度におこなったエウクレイデス『原論』の立体幾何(11-13巻)の再描画の結果を発表のために再検討する中で,写本によって微妙に相違する複数の図版の公開を準備する中で,図版の校訂の原則を決定することが重要な問題であることが判明した.すなわち,どのような基準で図版間の相違点と共通点を判断し,それらの原型(archetype)を決定するかということである.この検討に労力を要したため,予定していたアルキメデスの写本の図版の再描画の一部を次年度に持ち越した.(2-2)上記の「図版の校訂」という新たな課題のために,図形を構成する直線や角を計算する機能をツールに付加した.これはこのツールの使用者に好評である.(2-3)研究分担者,研究協力者以外にも主に海外で本研究で開発中の再描画ツールDRaFTを利用する研究者が数人現れて,これを利用した図版を用いた研究論文も発表されているので,簡単な使用説明書とチュートリアルを作成をおこなった.(3)球面幾何学に関連しては,前年度に描画したメネラオス『球面論』の図版を公開すべく,さらに検討を加えた.(4)7月と1月に海外の研究者を招聘して打ち合わせをおこなった.(5)必要な写本はほぼ全部をマイクロフィルム等で入手し,スキャンをおこなった.(6)研究成果の発表については,国際学会等では適切な機会がなかったが,論文を発表した.本研究はこの分野の主要な研究者に知られてきたので,今後は論文刊行に力を力を注ぎたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画になかった「図版の校訂」というテーマの重要性が判明したため,その検討に労力を割いたために,当初予定した作業には遅れが見られる.しかし研究の中で新たな重要なテーマが発見され,このテーマへのアプローチの見通しも立ちつつあるので,研究としては予想以上の成果をあげたともいえる.この二つの側面を勘案して「おおむね順調に進展している」と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画の「データベース化」については,最終年度までに可能な作業は当初予定したよりも少なくなる可能性があるが,必要なツールは完成させ,今後継続的な作業を可能にしたい.さらに当初課題には含まれていなかったが,以下の2点を可能な限り実現したい(1)「図版の校訂」は精密なデータベース化のためにも必要な作業であるので,その研究の基本的なアプローチを確立する.(2)本研究で開発した再描画ツールDRaFTの使用者が海外を中心に増えているので,使用説明書,チュートリアルをさらに充実させ,古代中世数学文献の図版研究の標準的ツールとなることを目指す.
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