研究概要 |
数学文献の写本の図版を再描画するプログラムDRaFTの改良をおこない,特に一つの写本に含まれる多くの図版の描画の設定,ラベルの文字などをまとめて変更する機能を拡充し,図版の校訂・出版に利用可能なツールとした.DRaFTは無償で提供しているので,他の研究者によって書籍や論文の図版作成に利用されている (P. Souffrin, Ecrits d'histoire des sciences, ISBN 978-2-251-42047-9など). 『原論』VI, XI, XII, XIII巻のギリシャ語写本5種の図版をDRaFTにより再描画し,公開した.以前の研究成果とあわせて『原論』の幾何学的諸巻全体に対し,主要写本の図版がが再描画され,利用可能となった. この作業の中で,写本による図版の相違,筆写時あるいは筆写後の図版の修正・変更が無視できないものであることが判明し,図版校訂の原則の確立と,校訂者の判断(修正・変更部分の特定など)を記述する方法の決定が必要であるとの結論に達した.このため,当初の研究計画になかった『原論』の整数論諸巻(VII, VIII, IX巻)の図版についても調査を行ない,2つの成果を得た.(1)整数論の図版は,議論の対象となる数を直線で表わすものに過ぎないが,直線の配置が議論の理解を助けるものであることを確認した(直線が比例する順に並べられるなど).現行の校訂版の図版はこの配置を無視している.写本に基づく図版の復元が必要である.(2)多くの図版には,命題を成立させる実例となる数値がギリシャ文字の数詞,またはアラビア数字で書き込まれている.これらはほとんど後世の加筆であり,数値は大きく2つのグループに分けられることを確認した.筆写後の写本が相互に参照されたと思われる.これらの数値,筆跡などの分析により,筆写後の写本の状況が明らかになる可能性がある.
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