文化財分野への応用を目的として、前年度までに確立した50-400nmのナノライム(水酸化カルシウム)による紙の脱酸性処置と石材等の強化処置を検討し、以下の結果を得た。 楮紙および雁皮紙にドーサ引きした酸性紙および酸性木材パルプ紙への脱酸性処理をナノライムおよび通常サイズのライム粒子で行い4ヶ月間の湿熱劣化処理(80^。C、65% rh)を行ったところ、強度低下(比引張強さや、比引裂強さ、耐折強さ)や変色を抑制する脱酸性効果は認められたが、両者の効果にはほとんど差が無かった。 漆喰、煉瓦、人工石材の計約500点及び天然石材(大谷石、琉球石灰石、インドネシア産安山岩)約100点の強化に対するナノライムアルコール懸濁液の効果を。現在良く用いられているWacker SILRES^。BS OH 100(非水性ナノ粒子)、Araldite 2020およびParaloid^<TM>B-72の効果と比較した。処理は1回および3回処理とし、引張強さ、超音波伝達速度(p-wave)およびEquotip動的堅さ試験により評価した。ナノライム水懸濁液で処理しても機械強度はほとんど改善されなかった。そこで、フェノールフタレイン試薬を試料断面にスプレーして、炭酸化の進行度を検討した。その結果、ライムが炭酸カルシウムへと変化して生じる強度上昇が試料表面2-3mmにしか生じていなかったたことがわかった。そのため、二酸化炭素雰囲気に室温、3ヶ月間保持したが、炭酸化はほとんど進まず、本法での強化処置は困難であった。
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