韓国出土の高麗時代、朝鮮時代の銅椀、銅皿、匙等10点について、金属組織観察、組成分析を行った。それらの内9点は現代韓国における青銅器「鍮器」と同様、Snを20%以上含む高錫青銅器であった。金属組織から、製法としては、鋳造後焼入れ、鍛造後焼入れの2種類の方法が用いられていたことがわかった。現代の鍮器では通常鋳造法で作られている匙も、鍛造によって形づくられていたのが興味深い。この成果は2009年11月に、韓国仁済大学において開催した平成21年度二国間交流事業(韓国とのセミナー)「韓半島の高錫青銅器の熱処理技術・製作技術」において発表した。韓国側の出席者は142名であり、多くの聴講者と研究内容について詳細な検討を行なった。このとき、韓国における高錫青銅研究の重要性が評価され、2010年1月から韓国の財団法人東亜細亜文化財研究院が本学へ研究員を派遣し、引き続き出土青銅器についての共同研究を進めている。 また、インドにおいて高錫青銅器(銅鑼や器)の工房を調査し、鋳造、鍛造時、あるいは焼入れ温度などの科学的な検証をおこなったほか、工房の許可をもらって試作品を持ち帰り、組織観察や分析評価を行なった。さらに、デカンカレッジとの共同研究を開始し、インドにおいて出土した青銅製品を入手、順次分析を進めているところである。 日本では、橿原考古学研究所所蔵のメスリ山古墳出土の鏃や群馬県綿貫観音山古墳出土銅製水瓶(いずれも国指定重要文化財)などについて、蛍光X線分析装置を用いた非破壊の成分分析を行った。 このように、韓国の青銅器を中心に川上のインド、川下の日本における青銅器についてのデータを順調に蓄積しており、高錫青銅の加工技術における技術伝搬を明らかにする上で、貴重なデータが集まってきている。
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