韓国の財団法人東亜細亜文化財研究院と「高錫青銅製品分析共同研究協定」を締結し、平成21年度に研究院から資料10点の提供を受け研究を開始したが、研究を加速するために平成22年1月から研究院の研究者を本学に受け入れ、出土青銅器の熱処理技術を含む製法についての共同研究を実施している。平成22年度には、韓岡慶尚南道出土の高麗時代、朝鮮時代の青銅器のなかから、分析に適した銅椀、銅血、匙等35点を選定し、組成や製法に関する調査、研究を行った。その結果、それらの80%が現代韓国における青銅器「鍮器」と同様、Snを20%以上含む高錫青銅器であり、熱間鍛造後、焼き入れ熱処理を施されていることがわかった。 また、東アジアにおける広域的な情報収集の観点から、インドファルマーナ遺跡出土の銅器31点についても分析を行い、そのうち10点については金属組織解析を行った。この遺跡から出土した資料に高錫青銅は見出すことはできなかったが、他の遺跡出士の資料についても調査を行なったところ、マフルジャリ遺跡の出土品から焼き入れの根拠が見られる資料が見出された。この資料は韓国の高錫青銅器と異なりSnの含有量は低いが、同様に熱処理(焼き入れ)が施されており、他の類例がないか引き続き調査中である。 日本の資料では、岡山県の殿田1号墳、荒神西古墳などから出土した銅鋺をはじめ、三重県神島八代神社神宝(国指定重要文化財)、東京大学博物館所蔵青銅器などについて、蛍光X線分析装置を用いた非破壊の成分分析を行った。 このように、高錫青銅の加工技術における技術伝搬を明らかにする上で必要なデータについて、韓国の高錫青銅器を中心に川上のインド、川下の日本にいたるまで順調に蓄積している。
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