研究概要 |
可搬型・非接触式近赤外分光光度計を導入するために,名古屋大学で行われた近赤外フォーラムに参加して機器の候補を絞った。候補機種を借用して実際に使用したうえで、本課題の研究目的に必要な仕様を確定し,Bruker社のMatrix-FFを購入した。本年度は購入機器の使用方法と波形解析ソフトウェアに習熟するために,スギとクロベを対象として分光分析を試みた。森林総合研究所の木材標本庫に所蔵されているスギの標本27点とクロベの標本10点を選別し,木口面の端部から約5mmを丸鋸で切削して新鮮な木口面を露出させた後、近赤外分光分析装置を用いてスペクトルを収集した。得られたスペクトルは、多変量解析ソフトウェアOpus(Bruker社)またはTQ Analyst(Thermo Scientific社)のアルゴリズムを用いて処理し、スギとクロベを判別するための最適な条件を検討した。主成分分析の技術を用いて判別分析を行うアルゴリズムでは,スペクトルに補正を加えて二次微分スペクトルを用いた場合に判別の精度が高まった。さらに,分析に用いる波数領域を限定して主成分の最大数を15まで増やすことによりスギとクロベの分離が可能になった。木材構造からスギまたはクロベと判断された近世の建築材の識別依頼標本からスペクトルを得て上記のアルゴリズムを適用した結果,この標本はスギと判断することができた。またクラスター解析でも識別依頼標本はスギのクラスターに属することが示された。これらのことから樹種判別を依頼された近世の建築材はスギであると判別された。その他,東京国立博物館の研究者と共同して,島根県の成相寺で木彫像の調査を行った。
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