研究概要 |
ヒノキ科の樹種は日本では先史時代から使われている重要な森林資源であり,江戸時代にはこれらの樹種が大量に伐り出され日本中で使われた。ヒノキ科樹種の識別は,このため日本の先史時代や歴史時代の木材利用を解明する上で不可欠である。ヒノキ科の樹種の種を木材構造から識別する可能性を探るため,日本産ヒノキ科5属7種について分野壁孔と放射組織の数量的な形質の変異を調べた。その結果,分野壁孔の大きさと型,1分野における数の平均値に注目すると種の識別が可能であることが明らかとなった。放射組織の高さと頻度は,種の変異幅がほとんど重なっており,識別には使えないことも明らかとなった。この解析の結果,従来の観察にもとづく識別拠点が有効であることが確かめられたほかに,新たな識別拠点も見いだされた。一方,近赤外分光分析法による樹種識別については,風化した古材の樹種識別がどこまで可能であるのかを,日本の美術史や歴史上で重要な樹種について調べた。森林総合研究所の木材標本庫に保管されている,過去80年にわたって各地で収集された針葉樹5種の木材標本を用いて近赤外スペクトルを取得した。最小二乗判別分析を用いて,ヒノキとカヤ,ヒノキとサワラ,ネズコとスギの3組の樹種が識別できるかどうかを検討した。同時にスペクトルの前処理と波長域の影響も評価した。検討した標本においては,830~1150nmの波長域の2次微分スペクトルを用いた最小二乗判別分析によって,100%の確率で2種を識別することが可能であった。この結果,近赤外分光分析法を最小二乗判別分析と組み合わせて用いることで,試料を破壊することなしに,風化した古材を識別できる可能性を示すことができた。
|