研究概要 |
本州中部日本海側山地の亜高山・高山域には,湿潤多雪環境のもと,オオシラビソ林,ダケカンバ林,バ林,ハイマツ低木林,雪田植生などの多様な植物群が分布している.東アジアの植物地理構造を反映した分布要素からみると,北東アジアから北米西海岸の湿潤海洋性気候下に分布するベーリング要素植物群が中心であり,大陸内部の乾燥気候下に分布する東シベリア要素や寒帯に分布する周北極要素も共存しており,これらは日本固有の植物群を形成している.本研究では,本州中部日本海側山地において,高山・亜高山域での最終氷期以降の植物群と環境の変遷史を,湿潤多雪環境の推移および植物地理的な分布要素に基づき整理した植物群の挙動を中心とした固有な植物群落の形成過程に焦点を当てて明らかにし,「乾燥気候が卓越した最終氷期時にも,より湿潤な気候下に分布するベーリング要素植物群が,地形的なすみわけを通じて共存分布していた」との,全く新しい植物群変遷史を提示することを目的とする.本年度には長野県北部の岩岳湖成層,神城湖成層,大正池ボーリング試料の植物化石を調べ,唐花見南部湿原でボーリング調査を行った.神城湖成層では,最終氷期最寒冷期のシラビソやカラマツを含む亜寒帯針葉樹林の中に現在の多雪域に固有なチシマネコノメソウが草本群落を構成していたことや,ブナ林の構成樹種であるウラジロモミが分布していたことが明らかになった.最終氷期からの報告が少なかったトウヒやダケカンバが,森林の主要構成種だったことも明らかになった.本科研メンバーによる日本地理学会「日本における亜高山・高山域の植生・環境変遷史研究グループ」は12月11日に信州大学山岳科学総合研究所で公開シンポジウム「日本における亜高山・高山域の植生・環境変遷史」を開催した.一般参加者を含む180名の参加者があり,本研究成果を公開し古植生,地質学,地形学の研究者と活発な議論を行った.
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