研究概要 |
本研究の目的は,アジアモンスーンの影響も受けた日本付近での「前線帯の質」の多彩な季節サイクルやその年々の変動性について,「日々の降水分布の偏り(激しい対流域,層状域,降水抑制域のコントラスト)とその集積」としての動気候学状態の視点から明らかにし,「温暖化等に伴う広域季節サイクルの変調が日本付近の降水に及ぼす影響」を解明するための基礎的知見を蓄積することにある。平成21年度には,日々の持続性の特徴も含めた梅雨最盛期の降雨や北陸の降雪等の長期変動や,季節サイクルの中での種々のステージにおける降水現象と広域大気過程等の解析,既存の知見のレビューによる温暖化に伴う日本付近の降水気候の変化を見る際の視点の考察,(大気大循環モデル利用のための基礎過程理解にも関連した)アジアモンスーン域での成層圏と対流圏との結合過程の検討,等を行い,繰り越し分も含めて,例えば次の結果を得た。 梅雨期の降水量が多い九州では,6月の降水量が,2000年代にはそれ以前に比べ減少していた。但し,九州南部では,6月前半の降水量は2000年代には減少していたが,梅雨最盛期の6月後半のそれは増加していた。つまり,その降水量減少は,九州北西部特有の現象であり,しかもそれは,「多降水日」(50mm/日以上)の出現頻度やその持続性の減少を反映することが明らかになった。なお,九州北西部は,全国的な秋雨期に移行する前の8月末頃に降水の季節的ピークが見られるなど,他の季節にも独特な地域として位置づけられる。一方,1987年以降の総降雪量の減少は,日降雪量30cm以上の降雪がある日(多雪日)の出現頻度の減少を強く反映していたが,多雪イベント開始時に,「里雪型」が持続しやすい上層場へと移行しやすいか否かが,それ以前の多雪期間の延べ日数との違いを生じさせていたことが明らかになった。また,広域季節サイクルの中で見た降水現象研究の一環として,盛夏期の集中豪雨の典型的事例である1968年8月17日の飛騨川豪雨の発現にかかわる環境場の特徴を最新のERA40再解析データで調べた。この豪雨は熱帯低気圧の通過後,熱帯気団内部に形成された「乾気前線と下層湿潤ベルト」内で発現していたことが分かった。 更に,日本付近の低気圧活動と日々の侵入気団の傾向の冬から春への変化に関連して,冬型がまだ卓越する2月以降,モンゴル付近から北日本へ東進発達する低気圧の経路が明瞭化し,間欠的ではあるが日本列島へかなり暖かい気団が侵入する機会も生じてくることも分かった。
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