研究概要 |
本研究の目的は,アジアモンスーンの影響も受けた日本付近での『前線帯の質』の多彩な季節サイクルやその年々の変動性について,『日々の降水分布の偏り(激しい対流域,層状域,降水抑制域のコントラスト)とその集積』としての動気候学状態の視点から明らかにし,「温暖化等に伴う広域季節サイクルの変調が日本付近の降水に及ぼす影響」を解明するための基礎的知見を蓄積することにある。平成22年度には,前年度の解析を継続しながら,更に解析対象を広げた。主な結果を次に示す。 2000年代になってからの九州北西部での梅雨最盛期である6月後半頃の総降水量の減少は,梅雨前線に伴う南九州での大雨の際にもその大雨域が北西九州まで広がらない事例が多くなったこと,それらの事例において,前線帯南方からの南風侵入が弱い傾向があるだけでなく,前線帯付近で更に北まで水蒸気を再分配させるような風系を伴いにくくなった点を明らかにした。また,盛夏期の集中豪雨の典型的事例である1968年8月17日の飛騨川豪雨の発現にかかわる環境場の特徴を,前年度の結果を踏まえて更に詳細に調べた。この豪雨は,台風が日本海を北上して温帯低気圧化した後,その南方の熱帯気団内部に形成された「乾気前線と下層湿潤ベルト」内で発現していた。このことは,大きく見ると亜熱帯高気圧に覆われた盛夏期の日本列島付近で,その中の高気圧風系の微細構造に関連した水循環にも注目すべきことを例示していて興味深い。また,1993, 1994, 1995年の秋雨前線の平均場の雲分布と大気場に関して,以前の予備解析の結果を再検討し,東西方向の活動域,積乱雲群に関連する背の高い雲域の位置づけ,等に注目した年々の変動の大きさを例示した。 一方,雨雪境界という観点から冬季の降水時の地上気温の統計的な特性を調べた。また,冬季の低気圧活動に伴う日降水の年々変動を解析し,南岸低気圧に伴う降水の経年的な強化傾向を見出した。更に,冬から春への変化に関連して前年度の解析を継続し,冬型がまだ卓越する2月以降,大陸側では40~50N付近で傾圧性が真冬よりも集中するようになることが,北日本へ東進発達する低気圧の出現と日本列島への間欠的な強い暖気侵入に関わっていることを明らかにした。これらの中で未発表の成果の一部は,平成23年5月の気象学会全国大会や8月の国際学会(AOGS)で発表予定。
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