研究課題/領域番号 |
21310009
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
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研究分担者 |
廣田 充 筑波大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (90391151)
白戸 康人 独立行政法人農業環境技術研究所, 農業環境インベントリーセンター, 主任研究員 (30354062)
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キーワード | 森林生態系 / 林床ササ / 非生物的プール / 生態系純生産量 / 土壌圏炭素 / 高山サイト / 黒ボク土 / Roth Cモデル |
研究概要 |
非生物的プールへの炭素シーケストレーションに与えるササの影響を明らかにするために、高山サイト内の2つの比較実験区(ササ区:TSY、ササなし区:TSN、両方とも20m×20m)の炭素量を測定すると共に、土壌炭素蓄積に深く関与する潜在的な溶存有機炭素動態を同時に調べた。両実験区の炭素量はTSYで9.7~18.7%、TSNで9.7~15.1%であり、特に0-5cmにおいてTSYで有意に約20%高い値を示した。また、地上部で生産され得る溶存有機炭素量はTSYで343kgCha^<-1>yr^<-1>、TSNで310kgCha^<-1>yr^<-1>、TSYのほうが約10%高い値を示した。さらに、表層土壌0-5cmで生産され得る溶存有機炭素量は、植物根がある場合では、TSYで約35%高く、植物根がない場合では、両者に有意な差は認められなかった。一方、表層土壌0-5cmで収着し得る溶存有機炭素は、TSYで51.4%、TSNで46.2%であり、両者に有意な差は認められなかった。以上の結果は、高山試験地二次林の林床ササ群落が表層土壌における炭素蓄積量増大(重量ベース)に寄与していることを明確に示している。このプロセスには、特に、地上部リター層および地下部の植物根(バイオマス、ネクロマス)を介して生産される溶存有機炭素量、表層土壌中での収着量が深く関与していることを強く示唆する。さらに野外で実測したリターデータを利用して、黒ボク土改良型のRothCモデルによって、高山サイトでの土壌炭素蓄積速度を解析したところ、地上部と地下部のササリターを土壌へのインプットとして考慮した場合0.7tCha^<-1>yr^<-1>の蓄積速度となり、野外での生態学的調査の結果とよく一致した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素シーケストレーションに対して、野外では溶存有機炭素の動態を追跡する新たな研究手法の開発に取り組むことによって、土壌炭素蓄積へのササの有無による僅かな違いを定量的に評価する目処がたった。さらに野外で取ったリターデータなどを利用して、モデルによって土壌炭素蓄積速度の解析を行い、実測値とのおおよその一致がみられ、ササリターの寄与について明確になってきた。これらの結果から、最終年度においては、当初の計画通りササの有無が土壌炭素蓄積に与える影響について定量的に評価できる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
野外での調査では、リター量から間接的に推定した溶存有機炭素フラックスから、ササあり区とササなし区との土壌炭素動態の研究を新たに開始したが、この比較研究についてフラックスを実測する継続研究を行う。また、モデル研究では、野外で取った実測のリター量データを更新すると共に、ササの葉や竿、地下茎などのリターの質的な違いについても考慮して、より詳しい解析を行う。このような実測データとモデル解析から、高山サイトにおいてササの有無が土壌炭素蓄積に与える影響について定量的に評価する。またこれらの最終年度の成果から、特に東アジアの二次林の炭素吸収に関する寄与と炭素管理に対する提言を行う。
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