研究概要 |
サンゴ礁海域は多種多様な生物が生息する特徴的な生態系であるが,近年サンゴの白化現象などにより衰退しつつある。白化はサンゴに共生する褐虫藻が,放出など様々なプロセスにより失われる現象である。前年度までにサンゴから褐虫藻がコンスタントに放出されていること,また環境中には褐虫藻が単独で出現していることを明らかにした。環境中の褐虫藻はサンゴから放出された「シンク」であるとともに新たな共生の「ソース」にもなると予想される。本年度は特に放出された褐虫藻の「ソース」としてのポテンシャルを見積もるため,以下の検証を行った。 1,サンゴから排出された褐虫藻の微細形態の観察 2,同褐虫藻の光合成活性の測定 3,同褐虫藻の光合成関連タンパク質の定量・局在状態 4,同褐虫藻の増殖ポテンシャル 1に関しては,サンゴから放出された褐虫藻の透過型電子顕微鏡観察を行ったが,放出された褐虫藻に鞭毛などは確認されなかったが,目立った損傷もなかった。 2に関しては,様々な水深から多種のサンゴを採取し,水槽実験を行った。人工的にサンゴから褐虫藻を分離し,時間を置いて光合成活性を測定した結果,分離した褐虫藻の光合成活性が有意に低下するものと,光合成活性が保たれるものが存在した。これが褐虫藻の遺伝型,あるいは光合成関連タンパク質の違いによるものか確認するため,遺伝子解析に着手した(3に関係)。また,光合成活性が保たれた褐虫藻はその後,わずかに増殖が見られた(4に関係)。さらに,採取したサンゴを高水温に曝したところ,深場のサンゴほどサンゴ内褐虫藻の光合成活性が低下しやすかったが,高水温がサンゴと褐虫藻どちらに影響したのかは今後の検討が必要である。以上の結果を合わせると,サンゴから放出される褐虫藻「シンク」には,細胞の損傷がなく,光合成活性も維持され,増殖が期待でき「ソース」としてのポテンシャルを有すると予想されるものが確かに存在する。
|