研究概要 |
当該年度は2回の石垣島での調査・実験を行った。実施計画ではフィールドのサンゴにトラップを仕掛け,そこに放出されてくる褐虫藻の状態を観察する予定であったが,これでは十分な細胞数が得られなかったため,急遽,水槽実験に切り替えた。10種のサンゴを水槽で流水飼育し,昼間に一定時間流水を停止,その間に放出されてくる褐虫藻を定量した。また,そのカルセイン染色により,褐虫藻がサンゴ細胞に包まれているか否か,カルコフロール染色により放出される褐虫藻が自由遊泳ステージに形態変化している可能性を調べた。なお,サンゴからの褐虫藻の放出を,定常的な現象(=健全な排出)とサンゴ白化に伴う異常現象(=ストレスによる異常排出)にわけて考えるため,水温27℃と30℃で飼育した。Calcein-AM染色の結果,非ストレス下(27℃)より温度ストレス下(30℃)の時に放出された褐虫藻の方が,比較的サンゴ組織に包まれている割合が高いことが分かった。いずれの温度下で放出された褐虫藻も,形態的には球形の共生ステージであったが,ほぼすべての細胞がCalcofluorで染色されたことから,鎧板を持つ自由生活ステージ(もしくは移行状態)にあることが示唆された.なお,非ストレス下で放出された褐虫藻を海水中で維持すると,翌日には鞭毛を持ち遊泳する細胞が多数確認された.光化学系IIの最大量子収率については,非ストレス下で放出された褐虫藻の方が高いFv/Fmの値を示した.これらのことから,少なくとも非ストレス下で放出された褐虫藻は生理的にactiveであり,自由生活ステージに移行可能である,すなわち,昨今議論が活発になっている"ビーコン仮説(自由生活状態の褐虫藻が他サンゴへ誘引される)"の一端を支持するものかもしれない.
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