細胞分裂において染色体が正確に分配されるためには、中心体数が安定に保たれることが重要であり、その異常は、がん発症に関係する染色体の異数性の原因となることが知られている。がんは正常細胞と比べてDNA損傷が増加しているが、このDNA損傷と中心体異常との関連性を、損傷に応答する多様な分子経路の解析によって明らかにしてきた。これまでに、RAD51に依存する相同組換え修復分子の機能低下によって中心体数が増加することを解明したために、さらにこの研究を拡大して、RAD52とRAD54Bの機能低下による染色体不安定性の誘導について検討した。その結果、これらのノックアウト細胞において、染色体の異数性は確認されたが、中心体の関与については明確な結論が得られなかった。そこで、RAD54Bについては、結合する蛋白質の解析を行い、細胞分裂の進行に重要な役割を果たすAPC/Cと複合体を形成することが判明した。この結果より、相同組換え修復による染色体不安定性の誘導においては、中心体の関与の他に、細胞分裂の進行に影響を及ぼす機序が存在することが示唆された。一方、がんにおける中心体異常の機構としては、その一つのモデルとして、がん精巣抗原であるSYCE2が体細胞で発現する場合に中心体が増加する現象に着目し、損傷応答経路と中心体安定性の関係を追求した。SYCE2の発現によってDNA損傷のセンサーであるATMの活性化の元進が中心体数の増加をもたらすことが明らかとなったために、さらにその上流の検討を行った。その結果、ATM活性の元進に伴って一部のヒストンの修飾が元進していることが判明した。以上の結果より、中心体安定性の維持に、ヒストン修飾を始めとするDNA損傷応答系の関与が存在することが示唆された。
|