本研究課題ではゲノムDNA損傷応答における役割が明らかでない核小体について、その核小体に含まれるタンパク質がゲノムDNA全般の修復機構に関与するのか、核小体に存在するrDNA遺伝子に特異的な修復機構があるのか、核小体、rDNAの異常がゲノム不安定性・発癌へつながるのかを解析し、核小体制御のゲノム安定性への役割を明らかにするために、平成23年度は核小体タンパク質のrDNA領域あるいは、ゲノムDNA全般のDNA修復、ゲノムDNA安定性の寄与を明らかにするために、核小体タンパク質にインターラクションするタンパク質を同定し、その機能について検討を行った。その結果、平成22年度研究で紫外線DNA損傷発生時の損傷乗越えDNA合成に機能することを明らかにしていたWRNとインターラクションするタンパク質NBS1が紫外線DNA損傷発生部位に集結すること、損傷乗越えDNA合成時のPCNAに対するE3リガーゼであるRad18と紫外線DNA損傷依存的に直接結合し、Rad18の損傷部位への集結を制御することによって、PCNAのユビキチン化を正に制御することを明らかにした。また、NBS1は紫外線誘発遺伝子突然変異の抑制にも重要であることを明らかにした。このように、紫外線誘発DNA損傷発生部位でゲノムDNAの複製フォークがストップしたとき、その損傷を乗越えてDNA合成を継続していく機構において、NBS1という新たな制御因子、その一連の制御機構を、世界に先駆けて発見・報告することができた。また、平成22年度研究で相同組み換え修復、DNA損傷チェックポイントへの機能を明らかにしたnucleolinについては、DNA損傷応答関連因子MDC1とインターラクションをすることを明らかにし、MDC1が関与するDNA損傷応答経路の活性化にnucleolinが必要であり、nucleolinがMDC1のDNA二重鎖切断損傷依存的なクロマチンへの集積にも必須であることを明らかにした。さらに、nucleolinはDNA二重鎖切断損傷発生時に、ゲノムDNAとヌクレオソーム安定構造を形成するヒストンタンパク質を、クロマチン・ヌクレオソーム構造から解離させることによりクロマチン構造を弛緩させ、MDC1依存的なDNA損傷応答を制御していることを明らかにした。このような研究から、放射線誘発DNA二重鎖切断損傷の修復及びゲノム安定性においてnucleolinのMDC1を介した新たな機能を世界に先駆けて明らかにした。
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