研究課題
本研究を提案する以前の我々の研究成果は、放射線発がんには、従来、主流と考えられてきた「DNA損傷を起源とし遺伝子突然変異を介する経路」以外に、「染色体異数化を起源とし遺伝子突然変異を介しない経路」があり、後者が圧倒的主経路であることを強く示唆している。そこで、本研究は、疑問(1)染色体異数化はどのような仕組みで誘導されるか?、疑問(2)染色体異数化が、発がんの直接の起源となりうるか?の二つの疑問を平成21年度から平成23年度の3年間で明らかにするために計画し実施している。その結果、平成21年度には、(1)染色体異数化は、放射線被ばくによって分裂時に二個以上の中心体を持つようになった細胞で生ずるメロテリック結合が引き金になって偽二極分裂が起こり(多中心体一偽二極分裂)、染色体が取り残されることによって生じていること、(2)多中心体一偽二極分裂は、25cGy以下の低線量被ばく数時間内に線量依存的に観察されるが、50cGy以上の線量域では、ほぼ全ての分裂終期細胞で観察される極めて感受性の高い現象であること、(3)DNAマイクロアレイ解析で遺伝子発現を調べた結果、三倍体細胞における遺伝子発現の程度は、二倍体細胞や四倍体細胞に比べ30-40%増加していること、(4)三倍体細胞は、細胞倍加時間の短縮、基質非依存性増殖能の増加などがん形質の発現が増強され、ヌードマウスにおける造腫瘍性が認められることなどを明らかにした。これらの結果は、放射線発がんの経路に「DNA損傷そのものを起源としない経路が存在する」という我々の仮説の妥当性を明確に支持する結果である。こうした現象は、放射線被ばくによって誘導される以外に、高密度培養でも同じ様に観察されるので、低線量放射線による発がん経路は、自然発がん経路と同じである可能性が示唆される。
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