研究概要 |
DNA-タンパク質クロスリンク(DPC)は非常にかさ高いゲノム損傷であり,複製や転写を強く阻害するため細胞に重篤な影響を与える。これまでの研究で,原核生物では,DPCに対しヌクレオチド除去修復(NER)と相同組換え(HR)が協調的に働くが,哺乳類細胞では,主にHRがDPC処理に働くことを示した。さらに,ゲノムにおけるDPCの修復動態を調べるため,クロスリンクタンパク質のFITC標識を用いた高感度なDPC定量法を確立した。本研究では,DPC誘発剤(アルデヒド化合物)で処理したMRC5細胞におけるゲノムDPCの変動を,直接蛍光測定および抗FITC抗体を用いたWestern法で調べた。アルデヒド化合物で誘発されたDPCの半減期は8-10時間であったが,formaldehydeでは半減期が短く約5時間であった。アルデヒド化合物によるDNAとタンパク質の架橋は比較的不安定であることから,細胞内におけるDPCの減衰は主に架橋の自発的な加水分解反応によるものと考えられるが,除去修復の寄与についても今後検討する必要がある。HRによるDPC回避機構については,アルデヒド物処理による姉妹染色分体交換(SCE)頻度を調べた。細胞生存率10%におけるSCE頻度は,処理により2-4倍上昇した。さらに,同処理により,HR鎖交換反応で中心的な役割を果たすRAD51の核内フォーカスが形成されることが明らかになった。また,ゲノム損傷応答としてヒストンH2AXのリン酸化フォーカスの形成も確認された。現在,DPCで停止した複製フォークのプロセシングに関与が予想される遺伝子欠損細胞のDPC誘発剤感受性を調べている。これと並行して,遺伝学的に詳細な検討が可能な大腸菌をモデルとして,停止した複製フォークの処理機と組換え中間体形成をPFGEで解析している。
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