研究概要 |
放射線や変異原物質は,DNA付随タンパク質をDNAに架橋しDNA-タンパク質クロスリンク(DPC)損傷を生じる。これまでの培養細胞(MRC5)を用いた研究で,典型的なDPC誘発剤であるアルデヒド化合物が誘発するDPCは,半減期5-8時間でゲノムから除去されることが示された。本研究では,ゲノムからのDPC除去機構を検討した。ヌクレオチド除去修復(NER)野生型細胞(MRC5)および欠損型細胞(XPA)を種々のアルデヒドで処理後,経時的にゲノムDNAを単離しFITC標識法でDPCを定量した。両者の細胞では,DPC除去速度に違いは認められなかった。一方,単離したゲノムDNAを生理的条件(37℃,pH7.4)でインキュベートすると,半減期8-20時間でDPCは減少した。この結果から,アルデヒド誘発DPCは,架橋結合の自発的な加水分解によりDMAから除去され,この反応は細胞内に含まれるアミン等により加速されることが示唆された。本研究では,放射線誘発DPCの除去動態についても検討した。マウス移植腫瘍(SCCVII)を常酸素および低酸素状態で放射線照射(炭素イオン線)し,経時的にゲノムDNAを単離しDPCを定量した。DPC初期生成量は低酸素腫瘍の方が常酸素腫瘍に比べ3~4倍多かった。逆にDNA二本鎖切断は常酸素腫瘍の方が低酸素腫瘍に比べ2.4倍多かった。興味深いことに,放射線誘発DPCは照射後10時間で約60%レベルまで減少したがそれ以降の減少は認められなかった。単離したゲノムDNAのインキュベーションでも二相的なDPCの減少が確認された。この結果から,放射線は不安定なDPCと安定なDPCを誘発し,後者は放射線に特徴的であることが示唆された。安定なDPCは,長期にわたりゲノムに残存しDNA複製および転写に影響を与えることが予想される。
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