研究課題/領域番号 |
21310041
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
横谷 明徳 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究主席 (10354987)
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研究分担者 |
藤井 健太郎 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (00360404)
鹿園 直哉 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (10354961)
渡辺 立子 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 研究副主幹 (10360439)
野口 実穂 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究員 (40455283)
樋口 真理子 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 任期付研究員 (90370460)
岡 壽崇 大阪大学, 産業科学研究所, 特任助教 (70339745)
山下 真一 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 博士研究員 (20511489)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | クラスターDNA損傷 / 塩基損傷 / APサイト / 電子常磁性共鳴装置 / 不対電子種 / トラック構造 / モンテカルロシミュレーション / 突然変異 |
研究概要 |
大型放射光施設(SPring-8)に設置された照射装置を用いて、酸素K殻イオン化エネルギーの軟X線をプラスミドDNAに照射し、DNAの分子鎖切断、塩基損傷、APサイト及びこれらを含むクラスター損傷を定量した。その結果、当初の予想に反し、大きな吸収断面積ではあるが酸素のK殻共鳴励起エネルギーでは、各種の損傷の収率が逆に小さくなることを見出した。この成果は、2013年8月につくばで開催される国際会議(LPBMS2013)で発表する予定である。さらにSPring-8に設置された電子常磁性共鳴(EPR)装置を用い、DNA分子薄膜を試料として損傷に至る反応中間体である不対電子種の生成の軟X線エネルギー依存性を詳細に調べた。その結果、イオン化閾値の近傍では不対電子種の異常な増感が見られ、理論的な解析によりPCI(衝突後相互作用)による光電子の再捕獲が生じている可能性を示すことができた。この成果はPhys.Rev.Lett.誌に掲載され、また原子力機構からプレス発表を行った。 一方、重イオンビームイオンビームの飛跡構造とこれをDNA試料に照射した時の線量分布構造をコンピュータシミュレーションするためのモンテカルロ計算コードの開発を進め、ガンの治療で用いられているC(6+)イオンビームを照射した実験結果と比較した。実験は、C(6+)イオンビームをDNAに対して照射した後、3種類の塩基除去修復酵素(Nth、Fpg及びNfo)のその活性を測定した。実験結果については、Radiat.Environ.Biophys誌に発表した。さらにシミュレーション解析結果についても、論文投稿の準備を行っている。 大腸菌に導入したクラスターDNA損傷を起点とする突然変異誘発の頻度を調べたところ、DNAポリメレースIがt突然変異の抑制に大きな役割を果たしていることを突き止めた。(Mutat.Res.誌に投稿中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本科研費テーマを構成する全てのサブテーマのほとんどにおいて、その成果を論文として発表、あるいは論文投稿中である。特にSPring-8の電子常磁性共鳴(EPR)装置を用いて、非常に寿命の短いDNA損傷前駆体である不対電子種の収率の軟X線エネルギー依存性を研究した成果は、「特定エネルギーで生じる新しいDNA損傷機構を発見-放射線によるDNA損傷の解明に向けて-」というタイトルでプレス発表されたことは特記される。
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今後の研究の推進方策 |
本科研費のテーマにより最近開発したDNA変性を利用する新しい手法を用いて、多重1本鎖切断型のクラスターDNA損傷(2本鎖切断にはならないがDNA両鎖に生じた複数の1本鎖切断)を定量し、これらの複雑な損傷が放射線の線質にどのように依存するかを明らかにすることを目指す。また大型放射光施(SPring-8)に設置されたEPR装置を用い、DNAに生じたラジカルやホール、補足電子といった不対電子種のその場観測を行う。 一方、イオンビームや軟X線をDNA試料に照射した時の線量分布構造(トラック構造)をコンピュータシミュレーションするためのモンテカルロシミュレーションを実施し、本科研費で実施したビームタイムで得られた実験データを解析する。 2.クラスターDNA損傷の難修復特性に関する研究 クラスターDNA損傷を大腸菌に挿入した上で、突然変異誘発効果を調べると同時に、さらにコンピュータによる分子動力学計算を行い、特定の塩基損傷から構成されるクラスター塩基損傷を有するDNAのコンフォメーション変化と塩基除去修復酵素の結合の度合いを明らかにする。 3. 成果発表 これらの研究成果を、10月にイタリアで開催されるマイクロドジメトリーの国際会議で発表するとともに、現在準備中の計5報の論文として投稿する。
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