研究概要 |
フェノール構造を有する化合物はプロテインジスルヒドイソメラーゼ(PDI)に結合することが明らかになっている。本年度は、PDIの結合ドメインの構造について詳しい検討を行った。PDIはa-b-b'-a'-cのドメイン構造からなるが、ビスフェノールA(BPA)や甲状腺ホルモン(T3)は(ここではリガンドと呼ぶ)、aまたはb'ドメインに結合し、b'ドメインへの結合によってそのイソメラーゼ活性が阻害されることを明らかにしている。今年度は、b'ドメインにおけるリガンド結合アミノ酸残基の同定、さらに結合によって起こるPDIの構造変化について検討した。まず、円偏光二色性スペクトル分析(CD)を行った。PDIと同様に古くから知られているERp57及びERp72との比較を行った。ERp57,ERp72についてはPDIに比べて、リガンドの結合が弱いことを明らかにした。CDにおいてPDIにBPAを添加すると290nm付近のTrpの吸収領域に増加が見られた。さらに、b'ドメインのHis(27番目)をLeuに置換するとBPAとの結合性が消滅することが明らかになったが、CDの解析によって290nm付近の吸収が減少することを明らかにした。一方、最近PDIに一酸化窒素(NO)が結合することで、その活性が低下することが報告された。そこで、大腸菌で発現・精製したPDI及びERp72にNOを添加してその反応性(ニトロシル化)を調べた。その結果、PDI,ERp72の酸化体ではNOが結合しないが、還元体ではNOの結合が見られた。さらにBPAを添加したところ、ERp72ではニトロシル化に変化がなかったが、PDIにおいては促進が見られた。また、T3についても同様の結果が得られた。以上の結果から、BPAなどPDIのリガンドは、その結合によってPDIの三次構造を変化させ、その活性や機能に影響を与えていることが明らかとなった。
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