研究概要 |
ポリフェノールは一般に体によいと考えられ、レスベラトロール(RES)はその代表的なもので、抗動脈硬化作用などの生理作用が報告されている。一方ビスフェノールA(BPA)は内分泌かく乱物質の一つとも考えられ、生体への悪影響が懸念されている。代表者らはBPA親和性カラムを用いて、ラット脳からBPA結合タンパク質として、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を精製した。RESについては結合因子が明らかではないが、低酸素応答を阻害することを明らかにしており、BPAについても同様の作用をもつことを明らかにしている。PDIはa, b, b', a'ドメインからなり、まず、どのドメインがBPAと結合するのかを明らかにした。各ドメインを大腸菌に発現精製したものを用いて、相互作用を検討した結果、aとb'がBPAと結合することが明らかとなった。同様に甲状腺ホルモンT3もこのドメインに結合した。これまで、ラット脳下垂体由来細胞GH3を用いて甲状腺ホルモン応答性のGHの発現が見られ、PDI過剰発現によって、T3応答が低下することが知られ、これはPDIのT3結合性によるリザーバー効果によると考えられている。PDIのT3およびBPAの結合ドメインが明らかになったことで、これらの欠損体を用いた検討から、PDIの酸化還元活性がRef-1を介して、甲状腺ホルモン受容体の活性を調整しているという新しいメカニズムを明らかにすることができた。Ref-1は元来低酸素応答において重要な役割を演じているHIF-1の還元因子として報告されたものであり、このことから、フェノール性の化学物質がPDIと結合して、その酸化還元活性を阻害することから、これらの化合物がPDIの活性を介して、甲状腺ホルモン受容体やHIF-1などの核内因子の活性に影響を与えている新しい機構を提唱するものである。
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