本研究では、単一量子ドット発光における核磁場効果(オーバーハウザー・シフト)を観測することにより、母体結晶の核スピンの空間分布を1ミクロン・オーダーの空間分解能で可視化することを目的とする。核偏極には荷電励起子と呼ぶ3体の励起子複合状態を共鳴的に光ポンピングすることで実現する。しかしながら荷電励起子状態の量子閉じ込めに関して未だ実験例がなく、信頼に足るスペクトル同定が困難であった。そこで本年度は、量子ドット3体励、起子の閉じ込め効果の実験に注力した。今回、独自手法で作製した無歪み系GaAs/AlGaAs量子ドットを用い、荷電励起子エネルギーのサイズ依存性の観測を進めた。単一の量子ドットからの発光信号を精密計測することにより、イオン化励起子の安定化エネルギーの値と、量子ドットの大きさとの関係性を世界で初めて明らかにした。特に得られた発見として以下が挙げられる。 ・陰イオン化した励起子の安定化エネルギーは、最大で約10ミリ電子ボルトとなることがわかった。この値は、以前知られていた同種材料の量子井戸構造での測定値に比べて5倍以上の値である。 ・一方、陽イオン励起子は、量子井戸構造とは質的に異なる挙動を示した。陽イオンが安定に存在するのは、大きさが約10ナノメートル以上の比較的大きな量子ドットにおいてのみであり、小さな量子ドットにおいては、安定には存在出来ないことがわかった。 電子間の相互作用による多体問題は、固体物理学の中心的な問題である。今回の研究は、ナノ極微空間の量子閉じ込め効果を初めて解明したものであり、学術的にインパクトがある成果である。
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