研究概要 |
最終年度は非平衡グリーン関数法と密度汎関数理論により分子架橋系の量子コンダクタンスに関して研究を推進した。 以下に主要な2つの系について説明する。 密度汎関数理論と非平衡グリーン関数法を用いて1,4-benzenedithiol(BDT)1,4-ベンゼンジチオールの電気伝導特性を自己無撞着に解いた。この分子を金電極で挟んだAu-BDT-Auの分子架橋系・分子狭窄系における弾性および非弾性トンネル特性を算定した。弾性トンネル現象の場合には、外部のゲート電場により、傾いたフェニル環分子を効率的に変調させ、電流を制御できることを示した。ゲート電圧の増加は分子接合部の金属電極と分子間の相互作用の変調に起因することを明らかにした。非弾性トンネル現象の場合には、自己無撞着ボルン・オッペンハイマー近似の範囲内で、分子の振動モードにより電子トンネル現象過程が散乱されると仮定し、その非弾性電子トンネルスペクトルを求めた。 本研究課題では、ナノリボンを2つの縞に分ける水素化チェーンによりジグザググラフェンナノリボン(ZGNR)の電気伝導特性を担うチャネルを開く方法を見いだした。ただし、全てのサイトを水素化させると高い導電性を有する半金属の性質を持つナノシートが絶縁体に変化する。また、各水素化チェーン近傍に2つのエッジ状態が現れる。5個から7個のチェーンのナノリボン(例えば5ZGNRH,6ZGNRH,7ZGNRH,7ZGNR2H)は水素化チェーンにより電気導電性が向上する様子が明らかになった。この表記では7ZGNR2Hは7ZGNRに2個の水素化チェーンを含むことを示す。水素化チェーンを持つZGNRはナノエレクトロニクスおよびカーボンエレクトロニクスの分野において、金属電極や非線形デバイスの構成要素として有望な材料であることを示した。
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