研究概要 |
本課題は、希薄磁性半導体(DMS)において母体結晶中の磁性元素の凝集に着目し、凝集メカニズムの解明により磁性元素の凝集を制御する手法を確立し、さらに磁性元素が凝集した系の物性を解明しデバイス応用の可能性を探索することを目的としている。本研究の対象物質であるII-VI族ベースDMSの(Zn,Cr)Teにおいては、ヨウ素(I)ドーピングによりCrの凝集が生じ、それに伴い強磁性転移温度T_Cが上昇することが明らかにされている。本研究では、分子線エピタキシー(MBE)法で成長した1ドープ(Zn,Cr)Teにおいて、Cr凝集と磁化特性の相関を詳しく調べた。 前年度までの研究で、Cr凝集の様子は成長中の基板温度T_Sにより大きく変化することが明らかとなっているが、今年度は特にCrの平均組成が10%以上と高い結晶において、Cr凝集領域の結晶構造と磁性がT_Sによりどのように変化するかを詳しく調べた。その結果、Cr凝集領域は六方晶構造のCrTeまたはCr欠損の生じたCr1-δTeの微結晶からなっており、これらの微結晶は六方晶のc面が母体の閃亜鉛鉱(ZB)構造の(111)A面と平行な方位で析出していることがTEM観察により確認された。さらにこの方位関係を利用して、X線回折測定により六方晶の微結晶からの回折の検出し、回折強度から六方晶析出物の量の評価を試みた。その結果、六方晶の析出量はT_Sに伴い増大することが明らかになった。さらに同じ一連の試料に対する磁化測定を行い、Arrott Plotから強磁性転移温度T_Cを、零磁場冷却下での磁化の温度依存性からブロッキング温度T_Bを導き、同じくT_Sに対する依存性を調べた。その結果、T_CはT_Sによらずほぼ一定であるのに対し、T_BはT_Sが330~390℃と高い領域ではT_Sと共に上昇し、六方晶の析出量と相関があることが確認された。
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