研究概要 |
本研究は,マイクロ・ナノスケールの光配線基盤技術となるプラズモン導波路(PWG)技術の確立を目指す研究である.本年度は(1)干渉計や方向性結合器の試作と特性評価,(2)電気光学効果等を用いた変調器の試作と特性評価,(3)プラズモンと通常の空間伝搬光の高効率光結合方法の提案を中心に取り組んだ. 項目(1)微細加工技術により基板上の銀薄膜上のギャップ幅150nm程度のPWG構造にて,分岐,干渉,方向性結合構造を試作した.真空波長850nm付近と1300nm付近のレーザ光を用いた光伝搬実験では,SN比が低いため方向性結合器の特性は明確ではなかったが,、干渉計における光伝搬とその機能が確認された.伝搬特性の入射波長依存性を得る事はできていないので,H23年度に実施する. 項目(2)昨年度平面形PWGにて光変調のデモンストレーションができたが,チャネル形PWG構造では,シミュレーションで予測されたほどの変調効果が得られなかったこれは構造作製の難しさに原因があると考え,より作製が容易と予想される熱的な屈折率変化を用いた変調器の検討を行い,シミュレーションにて変調特性の予測と,平面形PWGにて光変調の実証実験を行った. 項目(3)これまで端面入射を用いた励起実験では,端面での散乱光が非常に強く光学実験の障害となっていた.端面部の構造の工夫と微細加工法による整形で,観測側への散乱光をこれまでの1/3以下とすることに成功し,光学実験が容易となりデータの信頼性も向上した.周期変調されたグレーティング構造を用いて空間伝搬光による平面形導波路のプラズモン励起実験を行い,効率は低下するが同一入射条件でより広い波長域に対応する結合器を作製した.チャネル形PWG用のグレーティング構造による結合器は,励起効率がまだ低く構造的な工夫が必要であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
伝搬光を導波路への結合効率が低い上に,その部分で生ずる散乱光が強いため,導波路や素子部で生ずるストリーク光や出力光が,散乱光にマスクされ,信頼性の低いデータしか得られなかった.しかしながら,平成23年度末にこの問題を低減できる試料構造および作製方法が明らかになったので,今後はこの問題はクリアされる.また,光変調素子が有効に動作するためには,導波光のエネルギー密度が大きい部分にEO媒質などの屈折率変化を生ずる良質な材料を組み込むとことが望まれるが,現在の作製条件ではそれを達成することが困難であった,そこで,組み込みがより容易と思われる有機材料を採用することでこの問題の解決を試みている.
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今後の研究の推進方策 |
導波路構造の作製精度が上がるほど,構造の不完全性によって生ずるストリーク光強度は低下し,導波光の確認が困難となる.従って,基板の異方性エッチング等を利用し不要な散乱光発生が少なく再現性が良い入出力ポートを作製する.微細加工の精度向上に関しては,学内外の研究者の知見を参考にするほか,必要に応じて外部への試料作製の協力を依頼し,これまでより多くの構造に関する試行的な光学測定実験が実施できるよう努める.
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