電子顕微鏡や電子ビームリソグラフィーなどへ応用できるような電子源を目指し、申請者が発明したマイクロレンズ一体型フィールドエミッタの構造を最適化する目的で、本年度は、電界計算および電子ビーム軌道シミュレーションによる最適構造の探索と、実際のデバイスの試作のための準備を行った。 シミュレーションには、当初は有限要素法によるシミュレーションを行っていたが、電界放出による電子ビーム軌道の計算には、初期はナノメートルオーダーの領域を正確に計算する必要があり、なおかつ、放出された電子はミリメートルオーダーの領域を飛ぶので、スケールのオーダーが10桁近く異なることからメッシュを使う計算では正確なシミュレーションは不可能であるとの結論に至った。そのため、メッシュをきる必要のない境界電荷法を取り入れて最適構造を得るための計算を行った。シミュレーションの結果、強収束電子ビームを得るためには、電子の初速の小さい内に軌道補正を行わなければ、加速された後にいくら収束させようと電界をかけても収差を避けることができないことがわかり、そのために電子源の直近に軌道補正のための電極を形成することを発明するに至った(特許出願済み)。この電極を含めて合計6段の電極を有するマイクロレンズ一体型フィールドエミッタが最低限必要であることを明らかにした。 また、実際にシミュレーションで最適化した構造のマイクロレンズ一体型フィールドエミッタを試作するための準備として、多段のレンズを効率よく形成するために、スループットが高くなおかつ膜厚の面内均一性の高いスパッタ装置を設計・製作した。その装置を使ってニオブ電極の成膜条件の最適化を行った。
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