超伝導アトムチップを用いて中性原子の量子状態を制御する為に、現在最も重要と考えられる課題は、安定で急峻な磁場勾配のポテンシャルに冷却原子を捕捉し、(ポテンシャルの量子化ステップ)>(捕捉原子の運動エネルギー)を達成する、あるいは、ボース凝縮体を生成することにより、原子の外部自由度を量子化させることである。これまでの本研究課題の進捗により、超伝導永久電流を用いて、2次元的な閉じ込め周波数(ω)が数百kHzに至る強いポテンシャルを生成し、熱平衡温度が数十μKのルビジウム原子を捕捉することに成功した。しかしながら、捕捉された原子の温度が、まだ十分には冷えていない為、捕捉原子の更なる冷却が次の課題となっていた。本年度は、上記の課題を達成する為に、強い閉じ込めポテンシャルに捕捉された原子の特性の解明と、捕捉原子の冷却実験を行った。具体的には、捕捉原子のトラップからの損失率、および、トラップ中の熱平衡温度を飛行時間法(TOF)により計測することで、超伝導体の表面から数十μmの近傍に保持した原子には、大小2つの損失率が存在することを確認した。これらの内、大きい損失率は、超伝導体表面への原子の衝突に起因し、表面での原子の損失による蒸発冷却効果が働くことを確認した。また、小さい損失率は、バックグランドガスとの衝突に寄るものであり、数十秒の寿命がある為、蒸発冷却や捕捉原子の量子状態制御を行う上で障害とはならないことを確認した。次に、捕捉原子にRF磁場を印加・掃引することにより蒸発冷却を行い、超伝導チップ上の異方性が高いIP型磁場トラップ中でボース凝縮体を生成することに成功した。これにより、アトムチップ上で中性原子の外部自由度の量子化を達成した。
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