研究概要 |
(1)トンネル顕微鏡を用いたトンネル電子による単一分子の運動や反応確率を広範囲の電圧領域測定されだ様々な実験を定量的に再現できる理論式を構築した。これにより、振動励起に誘起された単一分子反応の素過程に関する重要な情報が定量的に得られることを世界で初めて明らかにした。(2)本研究課題の主要研究課題の一つであり負性微分抵抗が観測されたC60分子を含む実験(Novaesら、Phys.Rev.Lett.100,036807(2008)の理論解析をスペインのN.Lorenteらと共同して行った。2つの電極間の電位分布や透過率を第一原理計算を併用して行い、走査トンネル顕微鏡のティップの原子レベルでの構造の違いが負性微分抵抗の発現に重要な影響を与えることを見出した(本研究は現在も継続中)(3)バイスの物質探索が精力的に行われているが、ここ10年位にわたる電流輸送特性の精力的な実験・理論研究に加えて、電極で挟まれた分子における熱輸送、発生、散逸が主要な研究課題となっている。やはり本研究課題の主要な研究目的である分子系の熱伝導を現在世界中で爆発的に取り上げられているが分子と固体表面間の熱移動係数に関する一般理論を構築し、グラフェン(一昨年ノーベル賞受賞対象となった物質)に注目し、グラフェンと非晶質SiO2の間の熱移動係数を求めた実験値を良く再現する結果を得た。European Physics Letterに掲載されたこの研究成果はInstitute of Scienceが刊行する多くの学術専門誌の中から2010年におけるハイライト論文として選ばれた。(4)分子デバイスの創成にむけて単一分子を介した電子輸送と同時に自己集団化単分子層での電子輸送において分子振動との相互作用による熱発生が重要な問題となる。本研究目的を当初の計画に従って達成するために、国内の実験グループおよびスエーデンから招聘した理論研究者と共同して、アルカンチーオール自己集団化単分子層における非弾性トンネルスペクトルを密度汎関数第一原理計算で調べ、熱発生を起こす可能性のある部位を同位体置換効果と合わせて明らかにした成果が実験グループとの共同論文として、Physical Review LettersとNano Lettersに掲載された。
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