研究概要 |
大震災に伴う人的被害の様相とその規模は,刻々と変化する都市内滞留者・移動者の時空間分布に大きく依存している。また,詳細な地域防災計画を立案するためには,滞留者の詳細な属性情報が重要な意味を担うことになる。そこで,まず,これまでに開発した都市内滞留者・移動者の時空間分布記述モデルを活用して,大震災発生時における人々の一連の行動(一時待機・帰宅行動・避難行動)に関するシミュレーション分析を試みた。具体的には,以下のとおりである。 (1)環境情報・人間行動統合型シミュレーションモデルを用いた広域避難に関する分析:(1)昨年度に完成させた「環境情報シミュレータ」を用いて,分析対象地域(東京都世田谷区)における想定地震後の物的被害の様相についてのシミュレーション分析を試みた。(2)昨年度に完成させた「人間行動シミュレータ」を用いて,想定地震発生後における,人々の広域避難行動についてシミュレーション分析を試みた。(3)広域避難時の安全性を評価するための指標を設定し,これをもとに,避難者の安全性が,どのような条件によって大きく影響を受けるのかについてのシミュレーション分析を試みた。 (2)大規模鉄道駅周辺地域における群集流動の分析:(1)パーソントリップ調査のデータ(PTデータ)を用いて,大都規模鉄道駅(JP渋谷駅を想定)における時刻別・属性別・移動目的別の利用者数に関する情報と,移動目的地ゾーン,移動目的,移動時間についての情報を獲得した。これを用いて,鉄道駅からどの建物へ移動したのかを推定する数理統計的手法を構築した。(2)移動先建物までの歩行経路を推定し,歩道幅員や歩行者密度に応じて変動する,歩行者の歩行速度の違いを考慮した「歩行者流動モデル」を構築した。 (3)出社率の空間分布推定モデルの構築:(1)昨年度に試みた就業者の出社意思に関するアンケート調査の結果を用いて,大地震後の都市交通基盤が麻痺した状況下での就業者の出社意思を推定するモデル(出社意思モデル)を構築した。(2)出社意思モデルを用いて,PTデータから求めた就業者のプロフィール・勤務地・居住地・通勤経路などの情報をもとに,就業者の出社率を推定するモデルの構築を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「環境情報シミュレータ」および「人間行動シミュレータ」の構築が順調に進んだため,広域避難時の安全性評価のためのシミュレーション分析を予定よりも早く終えることができた。また,歩行者流動モデル,および,出社意思モデルの構築・改良についても,当初想定した所用時間以内で終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究を遂行する上での問題点としては,歩行者流動シミュレーションの実行には大きな計算負荷を伴うことから,当初予定していた計算時間の範囲内で結果を得ることが難しいことが判明した。計算アルゴリズムの改良とスーパーコンピュータ上での実行など,シミュレーションの効率的な実行について検討する必要がある。また,来年度が最終年度となるため,本研究課題で得られた研究成果の総括に十分な時間を割いて取り纏め,学術論文やシンポジウム,また,セミナーなどを通して,研究成果の社会還元を図りたい。
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