本研究では、マイクロRNA(microRNA)の発現・成熟を制御する機構を明らかにすることを目的としている。miRNAは、タンパク質をコードしないnoncodingRNAの一種で、メッセンジャーRNA(mRNA)の3'タンパク質非翻訳領域(3'UTR)に不完全に対合して、標的mRNAの翻訳を抑制する。これまでは、microRNAがどのような標的mRNAに対合して、その翻訳を抑制するのかという研究に焦点が当てられていたため、microRNAの発現・成熟過程についてはよくわかっていない。しかし、microRNAの発現および成熟過程の解析は、未知の多様な高次生命現象の解明には重要である。本研究では、この点に焦点を絞り、microRNAの発現・成熟に関わる機構について明らかにすることを目的とした。もともと細胞に内在的に存在するmicroRNAは、このような過程を経て細胞内のほぼすべてのRISCに取り込まれ、飽和していると考えられている。そのため、細胞外から導入した外来性microRNAは、RISC中の内在性microRNAと置換したとき、あるいは新規に合成されたRISCを内在性microRNAと奪い合って取り込まれたとき、初めてサイレンシング効果を示すと考えられる。すなわち、外来性microRNAはサイレンシングを誘導するだけでなく、内在性microRNAによるサイレンシングを抑制する作用があると考えられ、外来性microRNAの導入によるグローバルな遺伝子発現制御機構を理解するためには、外来性microRNAによるサイレンシング機構だけでなく、内在性microRNAによるサイレンシング抑制機構も明らかにする必要がある。 平成22年度の研究では、外来性miRNAによる内在性microRNAのサイレンシング効果抑制の機構についてレポーターアッセイおよびマイクロアレイによる解析を行なった。その結果、外来性miRNAの種類によって内在性microRNA活性の抑制の程度が異なると考えられる結果が得られた。さらに、このような違いが生じる原因を明らかにするために、内在性microRNA活性抑制効率の定量化を試みた。
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