研究概要 |
従来のポリA・トラップ法では、確かに非発現遺伝子をトラップすることはできたが、ベクターが遺伝子の最後のイントロンに挿入された細胞のみが繰り返し単離された。しかし、UPATrap法の創出により、ベクター挿入部位に関するこの著しい「偏り」が解消されたため、マウスES細胞中で全く発現(転写)されない遺伝子の機能を、ランダムな挿入型変異導入法によって「完全に」不活性化することが初めて可能となった。このアドバンテージを具体例で証明するため、ES細胞などでは完全にシャットオフされているものの、マウス胸腺で特異的に発現する遺伝子がトラップされたES細胞クローンの探索を行った。 トラップした遺伝子(あるいはその候補)のRNAレベルの発現が、既にexpressed sequence tag (EST)として確認されている場合には、ウェブ上で入手可能な公的情報から、それらの発現パターンを推察した。該当するESTの数が非常に少ない場合や、ESTとしての発現すら全く確認できていない塩基配列の場合には、遺伝子特異的なプライマーを設計し、RT-PCRにより発現パターンの解析を行った。一部の遺伝子に関しては、その塩基配列に基づき独自のDNAアレイを作製し、それぞれの基本的な発現パターンを解析した(Matsuda, E. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 4170-4174, 2004)。これら複数の手法を併用することにより、平成21年度には、トラップされた約1,000個の遺伝子に関する発現プロファイリングを行った。その結果、胸腺特異的遺伝子がトラップされたES細胞株を約5種類同定することに成功した。
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