従来のポリA・トラップ法では、確かに非発現遺伝子をトラップすることはできたが、ベクターが遺伝子の最後のイントロンに挿入された細胞のみが繰り返し単離された。しかし、UPATrap法の創出により、ベクター挿入部位に関するこの著しい「偏り」が解消されたため、マウス ES細胞中で全く発現(転写)されない遺伝子の機能を、ランダムな挿入型変異導入法によって「完全に」不活性化することが初めて可能となった。このアドバンテージを具体例で証明するため、前年度に引き続き、ES細胞などでは完全にシャットオフされているものの、マウス胸腺で特異的に発現する遺伝子がトラップされたES細胞クローンの探索を行った。 1.胸腺特異的遺伝子ノックアウトマウス 平成23年度末までに、胸腺特異的遺伝子がトラップされたES細胞クローンをさらに複数株見出した。その中から3株を選別し、現在常法に従い、ノックアウトマウスの系統を樹立中である。 2.胸腺特異的遺伝子ノックアウトの加速 改良されたUPATrapの最新バージョンでは、ベクター基盤にTo12トランスポゾンが採用されたため、標的細胞で発現中の遺伝子に偏って挿入される傾向は、レトロウイルス・ベクターの場合よりも有意に減弱した。しかし、この改良型トランスポゾン・ベクターの場合でも、発現しない遺伝子「のみ」を選択的にトラップすることはできない。この弱点を補い、欧米版KOMPのトラップ部門において殆ど未開拓状態として残されている「非発現遺伝子群」をES細胞中で重点的かつ迅速に破壊するため、ジフテリア毒素遺伝子による「:負の選択」に基づく新しい遺伝子トラップ法DTrapを開発し、完成させた。ベクターの内部では、FLP遺伝子の発現によって期待通りの相同組換え(FLExタイプ)が引き起こされることを確認した。
|