本研究の目的であるin vivoキナーゼ・基質ペア予測に必要な情報のプロテオーム規模での実測を達成するため、in vivoキナーゼ-基質連動性解析およびin vitroキナーゼアッセイを行った。in vivoキナーゼ-基質連動性解析については、ヒトガン細胞由来培養細胞株8種およびヒト白血病細胞由来培養細胞株10種について、リン酸化プロテオーム解析を行った。さらに12種類の異なる標的分子を持つキナーゼ阻害薬を様々な濃度で、様々な処理時間で反応させ、リン酸化プロテオーム解析を行い、in vivoキナーゼ-基質連動データを蓄積した。繰り返し実験を含むデータを多変量解析した結果、本手法は培養細胞間のリン酸化プロテオームの差を有意に検出できることがわかった。in vitroキナーゼアッセイについては、326種のリコンビナントキナーゼを入手し、HeLa細胞抽出物を試料としてキナーゼ反応を行い、リン酸化プロテオーム解析により基質となったリン酸化タンパク質およびそのリン酸化部位を同定した。HeLa細胞抽出物は温度感受性アルカリホスファターゼで脱リン酸化した後、高温処理にて不活性化する系を構築した。233種のセリン/スレオニンキナーゼおよび93種のチロシンキナーゼを反応させた結果、23561個のリン酸化部位が同定された。このうち8552個はin vivoでも同定されており、さらにこのうちの3468個は、1種類のキナーゼによってのみリン酸化が確認された部位であった。キナーゼ側からみると、260種のキナーゼはHeLa細胞発現タンパク質に対し、特異的なin vitro基質を有していることになる。予測ツール開発の前段階として、本年度は生データ解析ツールPhospep AnalyzerおよびデータベースPhospep DBを開発・整備した。
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