近年、耐性菌や再興感染症の問題から新しい観点からの抗感染症薬の開発が社会的に強く望まれている。このような背景のもと、創薬開発のみならず感染症の予防治療に貢献する新しいターゲット分子の提供は重要である。本研究では、申請者らが独自に発見した構造的にも活性的にも特色のある抗感染症剤について、それぞれの病原性あるいは関連する微生物(MRSA、EPECや結核菌M.smegmatis)を材料に活性発現の責任分子を同定し、その作用メカニズムの解明を目指す。1)Lariatin類(抗結核活性物質):lariaitnAのポリペプチド配列をコードする遺伝子を改変導入した放線菌宿主発現系(前年度に報告)を駆使して、30種以上の変異体を人為的に作製した。それらの構造活性相関を検討し、抗結核活性に重要なアミノ酸残基を特定した。今後、これらファーコフォア情報を基にin silicoでのnon-peptide創製への応用を検討する。さらに作用機序研究として、結核菌形態に及ぼす影響を解析し、時間・濃度依存的に細胞伸長を引き起こす作用があることを新たに見出した。同表現型はDNA複製阻害時に観察される表現型とも一致するため、本知見はlariatinによるDNA複製調節の阻害作用という申請者らが先に報告した研究成果を強く裏付ける結果と考えられる。2)Cyslabdan(β-ラクタム薬の抗MRSA活性増強物質):結合タンパク質として前年度に同定したアミノアシル転移酵素(FemA)の機能に基づいて、MRSA細胞壁のペプチドグリカンに及ぼす影響を解析した結果、cyslabdanはMRSA細胞内にmonoglycine-muropeptide蓄積を引き起こすことが明らかとなった。従って、cyslabdanはFemAの機能を阻害することでイミペネムとの共存下でペプチドグリカンの架橋反応を完全に停止させ、イミペネムの活性を増強させたと推定している。
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