研究概要 |
近年、耐性菌や再興感染症の問題から新しい観点からの抗感染症薬の開発が社会的に強く望まれている。このような背景のもと、創薬開発のみならず感染症の予防治療に貢献する新しいターゲット分子の提供は重要である。本研究では、申請者らが独自に発見した構造的にも活性的にも特色のある抗感染症剤について、それぞれの病原性あるいは関連する微生物(MRSA、EPECや結核菌M.smegmatis)を材料に活性発現の責任分子を同定し、その作用メカニズムの解明を目指す。1)Lariatin類(抗結核活性物質):独自に考案した放線菌宿主発現系を駆使して、前年度に特定した活性との関連性の高い数種のアミノ酸残基(Y_6,W_9,I_<16>,K_<17>,P_<18>)に着眼し、構造活性相関について詳細に研究した。種々の変異体による解析から、Y_6とW_9は、芳香族性のアミノ酸残基の存在が活性に必須であること、また、Ii6とPl8は、短い側鎖のアミノ酸残基の導入が活性の向上につながり、一方でK_<17>は短い側鎖のアミノ酸残基の導入は好ましくないことが明らかとなった。これら情報をもとに、天然物よりも高活性な変異体I16A/P18Aを取得した。さらに、ROESYを中心としたNMR解析から、多くの非活性な変異体において、貫通部と投げ縄環形成部との鍵相関が消失しており、これら変異体の立体構造が天然物と大きく異なることが明らかとなった。従って、立体構造の変化が化合物と標的分子との親和性に影響し活性低下を生じた可能性がある。これら変異体については、標的タンパク質MSMEG1878(前年度に同定)との結合性の評価に利用していく。2)Cyslabdan(β-ラクタム薬の抗MRSA活性増強物質):FemAタンパク質(前年度に同定)と化合物との共結晶実験を行うため、タンパク質の大量取得を検討した。Hisタグを融合させたタンパク質の大腸菌発現系を構築すると共に、ニッケルカラム及びゲルろ過カラムを組み合わせたタンパク質の精製法を確立し、これにより本実験に利用可能なタンパク質を供給できる基盤を整えた。今後、本タンパク質を利用した解析により、FemAタンパク質と化合物との結合様式の解明につながることが期待される。
|