研究概要 |
イネ科植物固有のムギネ酸金属錯体を輸送するトランスポーター(YSL)ファミリーにおいてアミノ酸配列の相同性が高いにも関わらず、特徴的な基質選択性を示す。本研究目的は、この選択性を規定する分子基盤に注目し、結晶構造解析による基質選択性を目指すことである。 1)HvYSL2の同定:我々は鉄欠乏状態で栽培したオオムギの根からムギネ酸鉄錯体特異的なトランスポーターHvYS1を同定したが、今年度はホモログであるHvYSL2を同定し、HvYS1が表皮細胞に発現して、ムギネ酸鉄錯体選択的に輸送するのに対し、HvYSL2は内皮細胞に局在して、広範な金属錯体を輸送することを明らかにした。 2)形質転換イネおよびムギネ酸(DMA)効果:HvYS1およびそれに類するムギネ酸金属錯体トランスポーターをイネに導入し、全身で過剰発現させることにより、植物の金属蓄積能力を増強または改変することを試みた。その結果、DMAを添加したpH5.8の培地で生育させたHvPSL2導入系等(T3世代)において生育向上傾向(乾燥重量の増加)が認められたため、一定の生育能力改善が起こっていると結論した。一方、アルカリ耐性付与においては、今回導入した遺伝子の効果よりもDMAを添加した効果が大きいことが明らかとなった。DMAの添加により、1個体あたりの鉄の蓄積量が3から4倍程度増加した結果を得た。 3)YSトランスポーターの構造解析:昆虫細胞にHvYS1,ZmYS1(トウモロコシ由来で広範な金属錯体輸送)のHISタグたんぱく質を発現させ、細胞抗体染色を行った結果、ともに細胞膜に発現していた。また、同じ昆虫細胞系で55Fe-DMA錯体の輸送活性を有していた。このことにより、植物のYSトランスポーターの局在と機能を昆虫細胞でも保持していることを確認した。昆虫細胞の膜画分からYSタンパク質を精製し、結晶化を試みることができた。
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